東京高等裁判所 昭和54年(行コ)23号 判決 1980年6月16日
東京都新宿区西新宿二丁目六番一号
控訴人
株式会社住宅サービス協会
右代表者代表取締役
神津和夫
右訴訟代理人弁護士
佐藤義行
東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号
被控訴人
淀橋税務署長
右指定代理人
小野拓美
同
古俣与喜男
同
三好毅
同
小沢英一
右当時者間の法人税更正請求に対する処分取消請求控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和五一年七月三一日付でした控訴人の昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当時者双方の主張及び証拠関係は、当審において、控訴代理人が甲第五号証の一ないし五、第六ないし第八号証を提出し、証人千田勝義の証言を援用し、乙第六号証の成立を認め、被控訴代理人が乙第六号証を提出し、右甲号各証の成立を認めた外は、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
理由
一、当裁判所は更に審究した結果、控訴人の本訴請求はこれを棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は次のとおり付加訂正する外は、原判決の理由と同一であるから、その説示を引用する。
(一) 原判決一三枚目表初行の「また」の前に「仮に法人の特定の事業年度の事業所得が零ないし欠損であるにかかわらず、土地の譲渡益があるためこれに対し課税されることになつたとしても、それは土地投機の抑制等を図る本制度創設の趣旨からくる当然の帰結であり、」を加える。
(二) 同裏四行目冒頭から同七行目までを次のとおり改める。
「本制度は昭和四四年一月一日以後法人が他から取得した土地につき、本法施行後の昭和四九年四月一日(例外として本法施行日の同四八年四月一日)以後の土地譲渡益に対し課税するものであつて、同四四年四月一日に遡つて過去の土地取得を課税の標準とするものではないのであるから、法律不遡求の原則に反するものではなく、また右制度は昭和四四年度の土地税制の効果を補完するため創設されたものであるから、課税の対象を右制度後に取得した土地に限ることなく、昭和四四年四月一日以後に取得した土地としたことは十分合理的理由があるのである。」
(三) 原判決一四枚目表五行目の「そして」から同九行目までを次のとおり改める。
「そして租税法規の立法は、国民経済の成長安定、当時の財政、社会政策等あらゆる要素を総合考慮してなすべきものであり、しかもその具体的内容の決定は立法府の合目的裁量に委ねられ、裁判所も右裁量を一応尊重すべきものであるところ、土地譲渡益重課税制度創設の趣旨が前述のとおりであることを考えると、右制度に控訴人の主張するごとき法人税法の基本原則に合致しない点があつたからといつて、このことをもつて右制度が立法権の裁量の限界を超えたものということはできないのである。」
(四) 同一五枚目裏六行目の「それが」の前に「当審証人千田勝義の証言により成立を認める甲第一号証の一ないし一一三、右証人の証言によると、控訴人の従業員は本制度に基づく土地譲渡益算定等のためかなりの時間と労力を費やしたことが認められるが、しかし右は本制度が創設された初年度のことであり、二年目以後は右のようにして得られた初年度の資料や経験を活用することにより、時間及び労力ともに減少することが予想されるから、この点を考慮すると、右各証拠をもつてしても」を加え、同八行目の「べき」とあるのを「ことはできず、他にこれを認めるに足りる」と訂正する。
(五) 原判決一六枚目裏七行目と八行目の間に次を加える。
「7. 土地譲渡益重課税制度は、右制度により課税対象となる土地の売買等を事業内容とする法人と、他の事業を営む法人との間に税負担の不公平を生じ憲法第一四条に違反する旨の主張について
税負担の公平が税制の基本原則であるとしても、租税法規の立法が国民経済の成長安定、当時の財政、社会政策等あらゆる要素を総合考慮してなされるべきものである以上、これを租税負担のみによつて律することはできず、本法の立法趣旨が前述のとおりであることを考えると、仮に控訴人主張のごとき事態が起きたからといつて、そのことのため本制度が国民の正義公平の観念に照らし到底容認できない程度に著しく不公平不均衡で、明らかに不合理であるとまでは認められないので、控訴人の右主張は理由がない。」
二、よつて控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 田畑常彦 裁判官 原島克己 裁判長裁判官棉引末男は退官につき署名押印できない。裁判官 田畑常彦)